第1章

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 真っ暗な部屋の中でベッドに潜り込んでいた。 「じゃあ・・・寝るけど、本当に大丈夫?」 「それってどういう意味の大丈夫?寝なくても大丈夫っていう心配?それとも」  きしりとベッドの軋む音がして、体重が掛かる感覚がした。経験した事のある雰囲気に息を飲んだ。まさか・・・ね。 「___無視?俺を子供だからって甘く見てる?」  毛布を頭までかぶっていた。その毛布の直ぐ向こうで声がする。ちゃらけてばっかりいるくせに、急に真剣に話し出すのはやめて欲しい。真面目な表情の男性に心動かされない人はいないと思うから。十歳近く年の離れた男に組み敷かれている状況は、いろんな意味で胸を高鳴らせた。 「ねえ・・」  しっとりとした色気のある声だった。あの無邪気に笑う青年から発せられた声なのか疑うくらいに。静かな部屋でドクドクと速まる鼓動が、優に聞こえていない事を祈った。 「寝たの?」 「・・・」 「渚さん?__なぎさ」 「・・・・」  今更起きてますなんて言えなかった。名前を呼ぶ切なげな声に、理由を考えても思い当たる節は無い。悪い子ではない、とそう思った。  今日は濃い一日だった。  今思い返すと恐ろしい自殺の衝動、優との出会いと不可解なお願い。文字にするとそれだけかとも思うが、これからの日々にぶるりと身体を震わせた。幽霊という存在をこんなにもあっさりと受け止めているのは、昔から本を読むことが好きだったからかもしれない。ファンタジーや恋愛、歴史ものなどたくさん読んだ中でよく出てくる存在だった。まさか、現実で遭遇するとは夢にも思わなかったけれど。  身体への圧力はいつの間にか消えていて、部屋は静まり返っていた。布団をめくって優の所在を確認したいとも思ったけれど、そんな事をしたら寝てないじゃんとからかわれてしまうかもしれない。  ”青少年には正しい距離感を”と自分に言い聞かせる。年上として”正しい道を示す事”。  思い出したくない過去がよぎり、違う事を考える。仕事は何時だったかだとか、明日は何を食べようかとか、ゴミの日はいつだったかだとか。そんなくだらないことを考えて今日も目を閉じる。 「___優、おやすみなさい」  小さな挨拶に返事はなかったが気にせず目を閉じた。明日がいい一日になりますようにと願いを込めて。
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