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「渚さん。俺にとって貴女は輝いて見えるよ?」
「__それは見間違い」
「居酒屋のバイト嫌い?」
仕事を止めて自暴自棄だった私を拾ってくれたのが、店長のくまさんとベテラン店員のりなさんだった。落ち込んで人見知りだった私を無理矢理ホールに立たせて背中を叩いてくれたのは二人だった。”お客様の前に出たら女優になりきること。ホールはステージだから、最高のエンターテイナーになりな”と熱く語ってくれたりなさん。私の事をいじってばかりいたくまさんは、私と他のスタッフを仲良くさせるためだと知ったのは随分後の事だった。
「嫌いじゃない」
「__そっか」
頬に当てられた優の手の平は相変わらず暖かくも冷たくも無い。それでも触れられているところから温かさが広がり、渚の心を融かしていくような気がした。
鼻を赤くしている渚を見て優が優しくはにかむ。
私から見たら、私よりもずっと優の方が輝いて見えるよ。__絶対、直接は言ってやらないけれど。
「じゃあ、もう一度寝る?」
「そうだなあ・・・、せっかく早く起きたんだしどっか行く?」
「え!?まじ?行きたい!」
食い気味に答える優は嬉しそうにベッドから立ち上がりガッツポーズをしている。自然に笑みがこぼれてしまい、隠す様に背伸びをした。こんな一日があってもいいかもしれない。
手早く準備して出発した。隣でそわそわしている優をほおって、ゆっくりと準備するのは居た堪れなかったからだ。そういえば優は寝たのだろうか。幽霊が寝るなんて話、聞いたことが無い。となると、一晩何をして過ごしたのか気になる。
「ねえ、夜は何してたの?」
「え?あぁ・・・古本屋に忍び込んで漫画立ち読みしてたよ。寝なくていいって便利だろ?」
「馬鹿っぽい」
隣で優が抗議の声を上げているが、それは笑って流しておいた。よかった。優は優で楽しみを見つけているのなら。眠れない夜が寂しい事を渚は痛い程知っている。
「忍び込んだって事は、やっぱり壁を通り抜けたり出来るの?」
「出来るよ。触るものを選べるからね。だから、渚さんが入浴中のお風呂場に忍び込む事もってぇ!痛いよ!渚さんって、意外と暴力的だよな」
「もし私の入浴中に入ってきたら今の五百倍叩くから」
「___鬼だ」
するりと渚の懐に入り込んでくる優に、不快感は無い。
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