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…あるところに魔王がいた。
世界の半分以上を手中におさめ今や膨大な魔力で世界に魔物をあふれさせていた。
巨大な城。沼の上に立つ暗雲立ちこめる頑強な砦に魔王は住んでいた。
長い間、誰も魔王に勝てるものはいなかった…。
そんなある日、魔王が気まぐれを起こした。
…といってもそこは魔王。残酷な余興を思いついていた。
『…この世界にはいずれ余に勝とうとする者が生まれる。その存在は勇者であり
勇気と知恵にあふれ、闇の力によって世界を支配する余を殺そうとするだろう。』
『…だがそこで、道中に心を折るような出来事があったらどうするだろうか?
この世界…不幸な道を歩むものはごまんといるが余の力が及ばぬとも不幸な人間は
山のようにいる。』
『人生に見放され、人にだまされ、認められぬまま死ぬものも多い…。』
『…ではその人間に出会ったとき、不幸な身でありながら決して救われない人間に。
勇者の歩む人生では通過点でしかない人間に。もし勇者が、さらなる不幸な形で
出会ってしまったとき、何を思い、何を感じるのか…。』
『…その様子を眺めることは、じつにおもしろいのではないか?』
そうつぶやくと、魔王は静かにほくそ笑んだ。
そして勇者が旅立つ時期を見計らうと、周囲に目をこらし、犠牲者を捜す。
…やがて、魔王は木こりの息子を見つけた。
彼は森の奥に住まい、父から虐待を受け、世間を知ることのない不幸な男だった。
魔王はそれを見ると楽しげにつぶやいた。
『まずは、こいつからだ…。』
そして、魔王は奸計を巡らせはじめた…。
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