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その日、西条真白は待ち合わせ場所の公園に着くなり、深緑色の鞄を開けた。そして鞄の中から小さな箱を取り出すと、ボルトの錆びた古いベンチの上にそっと置いた。
お気に入りのコーデュロイのワンピースに身を包み、長い髪を結いあげた真白は、普段より大人びた表情になって呟く。
「・・・・・・私のプレゼント、受け取ってくれるといいなあ。秋人」
三つ年上の相原秋人へのプレゼントが、ベンチの上に鎮座している。
「・・・・・・寒いなあ」
真白はマフラーをきつく締めると、身を震わせて公園の入り口へ視線を走らせた。どうやら今夜は雪が降りそうだ。十二月の乾いた風が吹き抜けていく。
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相原秋人が公園のベンチの上に置かれたプレゼントに気がついたのは、木々が凍てつくほど寒い冬のある日のことだった。夜も更けつつある時間に秋人は公園を歩いており、箱が視界に入ったのでベンチに近づいてみようとした。
「真白?」
見慣れた少し下手なラッピングの仕方で、それが真白の手によるものだと気がついた。布が大きく傾いだリボンの結び方が、真白の癖と同じだ。
「おまえなのか?」
真白を探すように視線を空に彷徨わせ、秋人は問いかける。もしそうならば、どんなにいいか・・・・・・。
「あ、秋人だ!」
突如、真白が現れた。彼女は無邪気な笑みを零しながら、秋人に近づいてこようとしている。
秋人は信じられない思いで彼女を凝視する。まさか、まさか・・・・・・。
「・・・・・・本当に、おまえなのか? 真白」
「もちろん。ずっと会いたかったのよ」
「・・・・・・なんで、ここに?」
「これ、渡そうと思って来たの。受け取って・・・・・・」
ベンチの上の小さな箱を秋人に手渡した途端に、真白の姿は掻き消えた。それは、まるで小さな白い羽根が空に飛んでいくかのようだった。
幻影? そう、彼女がここに居るはずがない。
秋人は目頭を押さえ、ベンチに蹲った。涙が溢れそうになる。もう足腰も弱り、髪も真っ白になってしまっているというのに、彼女はすぐに秋人だと気づいてくれたのだ。
58年前に、ここで会う約束をして、待ち合わせしていた彼女。
秋人に急用ができたせいで行けなかった日。ちょうどその日に、彼女は事故に遭って此の世を去ってしまったのだ。幾ら悔やんでも悔やみきれない上に、いつまでも忘れられない鮮やかすぎる記憶として、彼女は今でも秋人の中にいる。
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