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真白の姿は掻き消えたものの、まだプレゼントがベンチの上にあることに、秋人は気がついた。
秋人は皺だらけの手で包装紙を破り、箱の蓋を開けてみる。
その瞬間、秋人の体は縮み始め、やがて箱の中に吸い込まれていった。やはり白い羽根のような雪の降る十二月の夜のことだった。
★
その直後、公園を通りがかった犬の散歩をしている少年が、ベンチの上に置かれた箱に気がついた。
誰かが忘れて行ったものだろうか? 箱の傍には、誰もいなかった。
少年は首を捻りつつ、犬に手綱を引かれて走り去る。彼は振り返らずに犬を追う。
★
誰も知らない。
ある片田舎の街の小さな公園のベンチの上に、色褪せた木製の小箱が置かれていることを。
箱は時には雨に晒され、時には風に吹かれている。
その箱の中に、秋人と真白がいることを、誰も知らない。
★
そして箱の中で過ごすうちに秋人の姿は少しづつ若返り、次の年のクリスマスの頃には出会った頃の二人になっていた。
やがて背筋の伸びた長身の青年と、長い髪の大人びた少女が、箱から出てくる・・・・・・。
「さあ、行きましょう。今度こそ二人で、一緒に生きていこうね」
無邪気な笑顔で真白が笑う。秋人は、照れくささと嬉しさではにかみつつ微笑み返した。
「そういえば、おまえが用意してくれてた箱の中身は、何だったんだ?」
「秋人へのプレゼント? 中身は、なんだっていいじゃない。プレゼントなら、これからたくさんあげるわ」
真白が相好を崩す。
「また、おまえに会えるなんて思わなかったなあ」
「だって今日はクリスマスだもの。きっと、神様がこんな奇跡もいいよねって、用意してくれたのよ」
「・・・・・・神様って、サービスいいなあ」
「ね? だから、この世はとっても素敵なの」
そして二人は片田舎の街で共に暮らし始めた。
クリスマスに突然、街に住み着いた二人がどこから来たのかは、二人だけの秘密なのだった・・・・・・。
終
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