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揃っていない。きっとそれでまた価値は下がるだろうね」
「いいじゃないか、綺麗なのには代わりない」
「まぁ―」
それきりこの話は終わりになった。
その日から、このボタンを見る度、あの少女のことを思いだすようになった。小さな慰みは果たして彼女の祈りの賜物なのだろうか。いや、ただの偶然に過ぎない。そんなことをごたごたと考えていた。
ある日、私は船で別の国に渡ることとなった。出立する直前に、何とはなし、気まぐれに銀のボタンをそのポケットに入れた。最初は順調だった船旅だが、次第に天候が悪くなっていった。とうとうそれは嵐になり、船は荒れ狂う波に揉まれ、翻弄されることしかできなくなった。この船は沈むのではないかと思われた時、無意識にポケットの中のボタンを握りしめ、私は少女の祈りを思い出した。彼女がやっていた様に、両手を天に掲げ、目を閉じ、胸の前に組むと、一心に無事を祈った。
気がつけば眠っていたらしい。温い潮風が頬に当たり、目を開ける。空は一片の雲もなく澄み渡り、波はすっかり穏やかになっている。船は大した傷も無く浮き、帆は心地よい風を受けて進んでいった。
旅から戻って、私はボタンを大事にガラス箱に入れ、目に付く棚の上に飾った。これからこのボタンに祈ることが日課となるだろう。
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