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ジンジャーはただのクマのぬいぐるみ。
一人じゃ何もできない。
幸はそんなジンジャーを家族であるかのように接してくれた。
三歳のときは幸の好きなカレーライスを口元へ押しつけてきた。
あ~ん、とか言って。
ジンジャーも、あ~んと心で言い、心で食べた。
六歳のときは好きな男の子ができたとこっそり教えてくれた。
ベッドでぎゅっと抱きしめてくれた彼女の心臓はドキドキしていた。
十五歳のある日、クラスに居場所がないと泣き出した。
幸は独りじゃないよ、とジンジャーは言いたかった。
そして、幸を守れないこの体を憎く思った。
幸はお母さんに心配をかけまいと三年間、必死に毎日をとり繕いながら過ごした。
よほどのストレスがかかっていたのだろう。
幸はジンジャーの頭の毛を捻るようにいじった。
そのため一部分が禿げてしまったが、幸が送った地獄を思えばなんてことなかった。
ジンジャーは縫い付けられた口で何度も謝った。
ごめんな、幸。
守ってあげられなくて、本当にごめん……。
大学生になると共に、幸は一人暮らしを始めた。
ジンジャーも連れて行ってもらえた。
定位置のベッドの上。
真っ白な天井と狭い洋室。
新しい環境。
幸は外出を躊躇っていたが、日が経つごとに部屋にいる時間が減っていった。
いいことだとジンジャーは自分に言い聞かせた。
きっと、いい友達ができたんだ。
日に日に溜まっていくゴミ。
幸はそんなゴミの間を、器用に爪先で歩いて行くと髪をとかし、ピンク色の口紅をひく。
ジンジャーが幸と初めて会ったときのカバーオールと同じ色。
なぜか、寂しくてジンジャーは閉じられない自分の目を呪った。
ほどなくして、ジンジャーはベッドから机の上へ移動させられた。
ジンジャーの定位置だった場所には見たこともない男がいた。
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