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「あの、幸さんの住んでいるところってペット可ですか? 彼女って動物アレルギーじゃないですよね?」
「だったと思うが」
クロが葛西に目配せする。
葛西は首を左右した。
「お前の考えはわかった。でも、ダメだ」
「どうしてですか? オレ、幸さんに迷惑かけません!」
「運良く部屋に置いてもらえたとして、お前に彼女を守れるとは思えない」
「彼女が殴られそうになったら体当たりしてやります!」
「蹴られて終りだ」
「そんなことありません!」
「クロ」
葛西が声音を低くする。
クロは力不足を指摘されたからか涙目で歯を食いしばった。
「本当は死ぬはずだったオレをユイトさんはここで働くならって救ってくれました。だから、オレはこうして智也さんと過ごせてる。……オレ、ユイトさんやこの世界に恩を返していきたい。毎日、どうすればいいか考えていたんです。今日、ジンジャーさんに会って思いました。困っている誰かの役に立てれば少しは返せるかもしれないって。オレ、幸さんのところへ行きます。智也さんはジンジャーさんとお話していてください。今日は他に予約入っていませんから」
クロはエプロンを脱ぎ、カウンターへのせると出入り口へと駆けた。
そして、いとも簡単にドアを開け、闇へと吸い込まれていった。
ジンジャーが開けようとしてもドアはやはり開けられない。
「あなたは無理ですよ。ジンジャーさん? 席に座りましょう」
「いいのか、おい! 幸が突然現れた男を部屋へあげる訳がない。気持ち悪がられるか、警察へ通報されるぞ」
「その点については大丈夫ですよ」
葛西が透明のドアに手を当てる。
「あいつ、猫ですから」
「ね、こ?」
「ええ。ここから一歩出れば、黒猫です」
ジンジャーだってぬいぐるみなのに人としてここにいる。
猫が人の形をして動いていてもおかしくはない。
「あ! てか、あいつ、幸の顔、知らんだろ? 出戻ってくるんじゃないか?」
「そうですね」
「そうですねって」
葛西がカウンターへと歩き出す。
「あいつ、肝心なところで抜けてたりするんです」
「言ってやれよ。友達なんだろ?」
肩越しに振り返った男はジンジャーを値踏みするように見た。
「クロにはいい薬になるし、俺としては都合が良かったんで」
「それってどういう」
葛西は口角を上げ、揃えた指でカウンターを示した。
「珈琲、まだ飲んでないですよね?」
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