ヤクザとプロポーズ(1)

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ヤクザとプロポーズ(1)

 私は指先で、ロザリオの珠をかぞえていた。聖堂のステンドグラスに春の光が透けて、床に落ちている。美しい模様が、無機質な床に彩りを添えていた。  祈りを捧げるにふさわしい、いつも通りの穏やかな午後だ。しかし、それを妨げるように、耳をつんざくような車のブレーキ音が響いた。今の音は、なに?  私はロザリオから手を離し、礼拝堂の出口へと向かう。外に出ると、さくらの花びらが扉から吹き込んで来た。  門の方へ視線を向けたら、スモークガラスの大きな車が止まっているのが見えた。車のバンパーには、ダークスーツを来た男がもたれている。タバコを吸いながら、修道院の敷地に目を向けていた。なんだろう、あの男は。  他のシスターたちも不審に思ったようで、教会から出て来て、門に視線を向けている。私が門へと向かうと、シスターの一人が慌てて駆け寄ってきた。 「危険です、シスター・アンジェラ」 「大丈夫です、シスター・マリア」  私は不安そうな彼女にそう言い、車にもたれている男へと近づいていった。 「何かご用ですか」     
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