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3 翔
「ホラ、見て見て、あそこ……」
複数の女性社員たちが騒いでいる。
彼女たちの視線の先を追うと、ある男の姿に行きつく。
山口翔だ。
単に会社に出社して来ただけだが、注目のされ方が違う。
が、慣れているのか、彼女たちの視線にたじろがない。
クールに前を見つめ、通り過ぎる。
「ホラホラ、蛍も見る……」
同僚の中村葵に言われ、華野蛍も山口翔に目をやる。
社屋ビルの吹き抜け中二階の廊下から……。
つくづくと山口翔を見て蛍は思う。
ウン、確かに格好良い。
でも冷たそうだ。
自分のことをうっとり見つめる女性社員たちに少しも愛想を振り撒かない。
偶々、視線が合った相手に目礼するだけだ。
「確かに格好良いけどね」
蛍が口に出してコメントする。
「でも、わたしの好みじゃないな」
「蛍には健斗がいるからね」
「まあね」
「仲が良くていいわね」
「ウン。確かに……。これまで派手な喧嘩もないし、相性は抜群かも……」
「朝からノロ気かよ」
「いやいや、そんなんじゃないけど……」
「付き合い、ホント、長いんだよね」
「ほとんど生まれたときから……っていうか、記憶の初めから」
「ある意味、すごいわ」
「自分じゃ、わかんないんだけどね」
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