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「辛くて切ない」
「ふうん、それから……」
「悲しい……かな」
「そんなの、少しも愉しくないじゃない」
「そんなことないわよ」
「だって……」
「苦しい」
「だから……」
「溜息が出る」
「ホラ……」
「涙も出る」
「だから、さ」
「頭の中が翔くんでいっぱいになって他のことは何も考えられなくなる」
「やっぱり悪いことだらけじゃない」
「それが違うんだなあ」
「……」
「蛍は相手が幼馴染だったから経験ないかもしれないけど、恋って辛くても好いものなのよ」
「わたしには全然わからないわ」
「じゃ、蛍、翔くんに恋してみたら……」
「だから、わたしの好みじゃないし……。わたしには健斗がいるし……」
そのとき、どういう経路を辿ったのか、山口翔が蛍と葵に近づいてくる。
「ホラ、行っちゃへ……」
葵が面白半分、蛍を山口翔の歩いてくる方向へ突き飛ばす。
「あっ」
不意を突かれた蛍の身が仰け反り、胸ポケットからスマートフォンが飛び出す。
それが山口翔の進行方向すぐ前に落ち、バリッ、と……。
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