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4 動
山口翔が踏んだのは蛍のスマートフォンのアクセサリーだ。
詳しく言えば黄色いカピパラ人形。
「あっ」
山口翔が慌てて足を上げる。
が、その下のカピパラはバラバラだ。
蛍にはカピパラの小さな目がバッテンに変わったように見える。
山口翔がその場にしゃがみ込み、自分が毀したスマホ・アクセサリーの欠片を拾い上げる。
「ごめんなさい。お怪我はありませんでしたか」
そこに蛍が声をかける。
「いえ、オレの方こそ、済みません」
翔が蛍を見上げ、頭を下げる。
慌てて蛍も翔の隣にしゃがみ込む。
「毀しちゃいましたね。弁償します」
「いえいえいえ、いいんです。安物ですし……」
「しかし、そういうわけには……」
「悪いのは、わたしですし……」
「参考に……これ、」
と翔が自分が踏んで毀してしまった黄色いカピパラを右掌に握り、蛍に言う。
「預かっておきますから」
「あの、だから、いいんです」
「では後日……」
素早く立ち上がると翔がエレガントにその場から歩き去って行く。
一旦、そんな翔の姿に向いた女性社員の視線が一斉に蛍に注がれる。
(痛っ……)
マンガや小説で読んだことはあるが、本当に視線が痛いのだ。
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