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いったいどれくらいの数の女性社員に睨まれたか見当もつかない。
「さあ、もう仕事が始まるわ。早く行きましょ」
葵がわざと大きな声を出し、蛍に言う。
蛍が立ち上がると小声で、
「ゴメン、赦して……」
空かさず謝る。
「いいわよ。気にしてないし……」
蛍が葵に笑顔を見せる。
「でも、あのカピパラ、ちょっと気に入ってたんだ」
「ああ、やっぱり、ゴメン……」
「だから気にしてないって……」
すると葵は声のトーンを変え、
「翔くん、代わりに何を買って来てくれるのかしら……」
「高いモノを買って来られるとマズイな」
「ところでさ、翔くんとの会話まで聞かれていたら蛍の背中に穴が開いていたわよ」
「入社半年もしないで女性社員を総ナメなんてびっくりだわ」
「総ナメは大袈裟だけど、まあ、ファンは多いかな」
その日は結局、それだけで終わる。
会社の社員が多いのと部署が違うので蛍はまるで翔に会うことがない。
いつものように事務仕事に忙殺され続け、あっという間に週末だ。
「華野くん、これを纏めておいてくれないか」
総務部一課長の吉川正敏が蛍の机の前にぬっと現れ、気楽に言う。
「月曜の会議で使うから頼んだよ」
それならそれで、もっと早く頼めよ。
内心、蛍はそう思うが、当然のように口にはしない。
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