4 動

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 入社して覚えた上司向けスマイルで、 「畏まりました」  と返答しただけだ。  それを中村葵が呆れ顔で見つめている。  一課長の吉川が蛍の机の前を去ると蛍に近づき、小声で言う。 「アンタが甘い顔をするから仕事を押し付けられてるじゃない」 「ないよりはマシよ」 「入社半年で壁際族はないわ。あっ、辞めたのは既にいるけど……」 「人事部長、上から怒られてたみたい」 「すでに同期が三人もいないって異常だわ」 「他人(ひと)は他人、我は我……」 「そういえば蛍、翔くんから何か連絡はあった……」 「全然……。向こうも忙しいんでしょ」 「営業だから飛びまわってるしね」  言うだけ言うと葵が去る。 「じゃ、やるか」  蛍が吉川の残していった書類の束に目を向ける。  定時までの約一時間でどこまで進むかが勝負だ。  ……と気合を入れたが、思ったより纏め易い書類が多く、定時までに約九割が片付いてしまう。  残業開始時刻までには余裕で終わるだろう。  そう思い、ペットボトルの紅茶を飲み、気分を切り換えると続きを始める。  午後六時半前に関係者全員に資料をメール発信し、本日終了。  長居は無用、さっさと家に帰ろうと蛍が腰を浮かす。  そこに山口翔が現れる。     
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