7人が本棚に入れています
本棚に追加
/255ページ
入社して覚えた上司向けスマイルで、
「畏まりました」
と返答しただけだ。
それを中村葵が呆れ顔で見つめている。
一課長の吉川が蛍の机の前を去ると蛍に近づき、小声で言う。
「アンタが甘い顔をするから仕事を押し付けられてるじゃない」
「ないよりはマシよ」
「入社半年で壁際族はないわ。あっ、辞めたのは既にいるけど……」
「人事部長、上から怒られてたみたい」
「すでに同期が三人もいないって異常だわ」
「他人(ひと)は他人、我は我……」
「そういえば蛍、翔くんから何か連絡はあった……」
「全然……。向こうも忙しいんでしょ」
「営業だから飛びまわってるしね」
言うだけ言うと葵が去る。
「じゃ、やるか」
蛍が吉川の残していった書類の束に目を向ける。
定時までの約一時間でどこまで進むかが勝負だ。
……と気合を入れたが、思ったより纏め易い書類が多く、定時までに約九割が片付いてしまう。
残業開始時刻までには余裕で終わるだろう。
そう思い、ペットボトルの紅茶を飲み、気分を切り換えると続きを始める。
午後六時半前に関係者全員に資料をメール発信し、本日終了。
長居は無用、さっさと家に帰ろうと蛍が腰を浮かす。
そこに山口翔が現れる。
最初のコメントを投稿しよう!