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 自社製品がガラスケース内に展示されるエントランスを抜け、社屋の外へ……。  地下鉄の最寄駅まで約五分間の道程だ。 「華野さんはT線ですか」  翔が蛍に問いかける。 「はい、そうです」  蛍が答え、ついで、 「あの、わたしのこと呼ぶとき、蛍でいいですから……」  と続ける。 「まあ、どうせ社内では華野さん……となるのでしょうけど」  蛍がどうでもいいことを一言付け加えると、 「じゃあ、オレのことは翔って呼んでください」  翔が蛍の目を覗き込みながら、そんなことを言う。  わたしの顔を覗き込んだのは本気……という意味だろうか、と蛍が思う。  ついで翔が、 「ええと、社外では……」  と続けると蛍の胸がキュンとなる。  えっ、何、この感情……。  蛍は惑うが答は出ない。  まさか、これが、あの……。  蛍は自分で驚きながらも真剣になる。  でも、それって……。  あーっ、マズイ、マズイ、マズイ。  すると翔がいきなり、 「蛍さんの趣味を聞いてもいいですか」  蛍の気持ちにまるで気づかない口調で、そんなことを問う。 「ああ、趣味ですか。何だろう……。一番続いているのが折り紙かな」  蛍が答えると翔が嬉しそうに蛍に言う。 「へえー、そうなんだ。昔、ウチにホームステイをしに来ていたカナダ人の趣味が折り紙だったんです」     
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