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「あの、わたし、翔くんを見かけたものだから……。あの、わたし、翔くんのことが好きになってしまったから……」
華野かの蛍が遂に言ってしまったという表情を見せる。
山口翔は蛍を優しく受け入れる。
が、すぐに困ったように視線を逸らす。
「気持ちは嬉しいですが、オレ、結婚してますから……。結婚指輪はしていませんが……」
「もちろん知ってます」
「だったら何故……」
「気持ちを伝えないと自分に嘘を吐いている気がして……」
「……」
「ごめんなさい。面倒臭い女で……」
「いや、頭を上げてください」
「だって迷惑をかけちゃったから……」
「まだ迷惑はかけられていませんよ」
「本当に……」
「そう訊くところが迷惑かもしれませんけど……」
山口翔の言葉に華野蛍がクスリと笑う。
そんな華野蛍の仕種に山口翔がふと微笑む。
「自分勝手だけど、言って、すっきりした」
もう平気なんだ、と決断した人の声で華野蛍が口にする。
「それは良かったですね」
山口翔は困ったように受け答え続けるしかない。
けれども、そんな山口翔の言葉に勇気を得たように華野蛍が宣言する。
「でも、もう忘れる。翔くんへの想いは忘れる。だから翔くんも忘れて……」
「蛍さんが望むなら、そうします」
「それでさ、もしも会社で会ったら普通に話をしてね、お願い……」
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