6 帰

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 地下鉄がターミナル駅に着き、改札を抜けた二人が乗り換えのため、地下通路を歩く。  地下通路は通勤や通学帰りの人たちでごった返している。  就職で上京した人間ならば大抵一度は驚くが、都会(ただし郊外)生まれの蛍と翔には日常風景だ。  K線の改札を抜け、階段を降り、狭いホームへと至る。  地下にK線のターミナル駅が作られ何年経つか知らないが、こんなに混むことを見越していれば、もう少し広く設計したはずだ。 「ホームの先まで行けるかな」  人混みの中で蛍が言うと、 「歩きましょう」  と翔が答える。  それで二人で人を掻き分け、ホームの先まで歩く。 「蛍さんが降りるW駅は階段がホームの端じゃないでしょう」 「わたし、混んでいるのがダメなのよ」 「オレも根性がなくなったですね。高校の頃までは無理してでも一番前の車両に乗ったのに……」 「あら、わたしも同じ……」  新卒社員、二十二、三歳とも思えない年寄りじみた会話だ。 「さすがに座れませんから一本待ちますか」 「急ぐなら翔くん、先に乗っていいわよ」 「ここまで来たのだから蛍さんと一緒に帰りますよ」  翔の言葉に他意はない。  が、蛍の顔が赤くなる。 「ごめんね。付き合わせちゃって……」     
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