7人が本棚に入れています
本棚に追加
7 離
「玉手箱を開けたかな」
すると翔が呪文を続ける。
「ああ、そういえば、そんな続きもあったわね」
蛍が懐かしく思い出す。
いったい何時から、天の神様の言うとおり、を唱えなくなったのだろう。
「地方ヴァージョンが沢山あるんです。中学のときに夏休みの課題で調べたことがあって……」
「なるほど」
「ほとんど覚えていませんけどね」
「覚えているのを聞かせて……」
「鉄砲撃ってバンバンバン、とか、もーひとつおまけに柿の種、とか、玉手箱があいたかな、とかですね」
「玉手箱があいたかな、があるのか。ふうん……」
「全国的に、柿の種、の出現率が高くって……。それに、天の神様、は、天神様、のヴァージョンも多いんですよ」
「菅原道真公は祟りを恐れられて祭り上げられ、神様になった人だから、霊験あらたか、だよね」
「学問の神様ですけど、プレイボーイでもあったみたいですよ」
「できる男はみんなそうじゃないかな。翔くんだって……」
「蛍さん、オレと道真公を比べないでくださいよ」
「あははは……」
何でもない翔との会話が蛍には愉しい。
マズイ、本当に恋に落ちてしまったのだろうか。
それとも……。
健斗の顔が不意に蛍の目の裏に浮かぶ。
最初のコメントを投稿しよう!