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「玉手箱を開けたかな」  すると翔が呪文を続ける。 「ああ、そういえば、そんな続きもあったわね」  蛍が懐かしく思い出す。  いったい何時から、天の神様の言うとおり、を唱えなくなったのだろう。 「地方ヴァージョンが沢山あるんです。中学のときに夏休みの課題で調べたことがあって……」 「なるほど」 「ほとんど覚えていませんけどね」 「覚えているのを聞かせて……」 「鉄砲撃ってバンバンバン、とか、もーひとつおまけに柿の種、とか、玉手箱があいたかな、とかですね」 「玉手箱があいたかな、があるのか。ふうん……」 「全国的に、柿の種、の出現率が高くって……。それに、天の神様、は、天神様、のヴァージョンも多いんですよ」 「菅原道真公は祟りを恐れられて祭り上げられ、神様になった人だから、霊験あらたか、だよね」 「学問の神様ですけど、プレイボーイでもあったみたいですよ」 「できる男はみんなそうじゃないかな。翔くんだって……」 「蛍さん、オレと道真公を比べないでくださいよ」 「あははは……」  何でもない翔との会話が蛍には愉しい。  マズイ、本当に恋に落ちてしまったのだろうか。  それとも……。  健斗の顔が不意に蛍の目の裏に浮かぶ。     
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