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2 恋
「ハックション」
華野蛍の夫、健斗(けんと)が家でくしゃみをする。
「誰かがおれの噂をしているな」
独り言を言い、情けない表情を見せる。
蛍は、もう帰ってこないんじゃないだろうか。
思いたくはないが、そう思ってしまう。
いや、待て、向こうだって大人だ。
蛍のことを軽くあしらってくれるだろう。
期待はするが、それで気持ちが収まるわけではない。
山口翔が蛍を振ったところで蛍の気持ちは変わらない。
いや、蛍は自らの想いを断ち切ろうと努めるだろうが、おそらくそれは叶わない。
幼い頃から蛍の傍にいる健斗には、そのことがわかる。
わかるだけに健斗は気が気ではない。
蛍はまだ恋をしたことがないのだ。
珍しいと言えば超稀少生物かもしれない。
健斗はそのことを知っている。
知っているというよりは確信している。
そんな確信などしたくないのだが……。
蛍は、健斗のことを嫌いではないだろう。
結婚までしたくらいだから当然だ。
が、愛してはいない。
蛍がもし愛が何であるかを理解していたとすれば健斗のプロポーズに躊躇いを見せたはずだ。
けれども実際には、蛍は驚きはしたものの、すぐに健斗に答を返している。
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