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第一章 まさか、この気持ちは…… 1 告
人の姿も疎らな夜のプラットホーム。
滑り込んで来た電車から勤め人や学生たちがパラパラと降りる。
その中に一際目立つ若い男がいる。
背が高く、ほっそりとした身体つき。
美形というには、やや鼻が大きいが、顔全体のバランスは悪くない。
事実、その男はモテる。
……というより、子供の頃からモテ続ける。
けれども浮ついたところは何処にもない。
それがまた多くの女性たちの心を擽る。
しかし、その夜、男は誰の関心も惹いていない。
黒い鞄を持ち、ゆっくりと改札に向かって歩いている。
……と、そこに慌てた感じで一人の女性が走り寄ってくる。
同じ電車に乗っていたのか、それとも柱の陰に隠れていたか。
女性は自分でも困ったような表情を浮かべている。
自分の気持ちを持て余してしまった人のようだ。
女性の形相は必至だが、どことなくユーモラスな雰囲気もある。
本人にとっては、それどころではないのだろうが……。
「翔しょうくん」
僅かに躊躇った末、突然女性が男の名を呼ぶ。
どうやら二人は知り合いのようだ。
「どうかしましたか」
女性の声に振り返った男、山口翔が驚いて答える。
「蛍ほたるさん」
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