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本当だとも。実際に見たことがある。
近くの居酒屋で、ガスボンベが引火して爆発した時だ。
宵の口に、どかん、と凄い音が響いて、不発弾でも爆発したのかって飛び出していったらさ、この先の居酒屋が燃え上がってるんだ。
駆けつけた者でバケツリレーして、消防車が来て、火は下火になったんだが、焼け焦げた店の中に、人が何人か倒れているじゃないか。客が巻き添えくったぞ、て助けに入ったりしてさ。
店の裏手に回ったら、路地が暗くてよく見えない。裏口にも人が倒れてるみたいだ。
誰かが懐中電灯で照らした。
そしたらさ、店の亭主が、血まみれになって横たわってて、首筋に、あの灰色の死神犬ががぶりと噛みついててさ、どこかへひきずっていこうとしていやがる。
片目が琥珀色に光って、こっちを睨みつけてくるんだ。照らした者が悲鳴をあげて懐中電灯を落っことしちまった。
石を投げて追い払ったが、亭主は死んでたよ。
人の肉を喰らうつもりでどこかへ隠そうとしていたんだな。
こんな話は幾つもあるんだ。
交通事故で人が乗ったまま燃える車を、火を怖がりもしないでうかがっていたとか。
道端に行き倒れた浮浪者の顔を、今にも喰らいつきそうに舐めていたとか。
人が死ぬところにいつのまにかひっそりとひかえている。ほんと、どうやって知るのかねえ。
だから死神なんて呼ばれるようになったのさ。
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