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巡回中の出来事です。
川っ縁の、バラック小屋が建ち並んでいる所にさしかかった時でした。
どこからか、奇妙な音がしました。ガリガリと木を引っ掻くような音です。
秋のたそがれどきで、迷路みたいな路地はもう暗くなっていました。
あの辺りの掘っ立て小屋は、終戦直後に建てられて、戦災者が住んでいましたが、その時はもう無人地帯になっていました。最近オリンピックの開発で取り壊されましたがね。
どこからか、ガリガリ、ガリガリ、と。
本官は一人でしたが、周囲に注意して、路地裏に入っていきました。
無人の小屋が密集している奥へと踏み込んでいくと、突然、獣の声が響きました。野犬が吠える太い声で、ウォン、ウォンと。
すぐ近くでした。夕闇の底で聞くとゾッとする凄い声でした。
ある小屋の木戸の前に、灰色のうごめくものがありました。
死神と呼ばれているあの犬ですよ。
やつは戸の前に座って、本官が近づくのを、睨んでいました。
片方の目が、暗い琥珀色で、それがまた不気味で。
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