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本官はひるまずに迫っていきました。
するとやつはくるりと木戸に向いて、ガリガリと爪を立てると、ぱっと離れて、路地の暗がりに逃げ去ったのです。
凶暴な野良犬を追い払って、ホッとしました。
やつはなぜあの木戸を掻いていたのだろうと気になって、念のためにその小屋を調べてみました。
長い間放置されて荒れていますが、木戸は鍵が掛かっているのか開きません。
硝子のない窓から暗い中をのぞいて、懐中電灯で照らしてみました。
すると人が倒れています。男の子です。声を掛けても反応がありません。
本官は、木戸を蹴破って入り、気を失っている子供を救出しました。
その子は、他の子供と冒険ごっこや隠れんぼをして遊んでいるうちに、奥まで迷い込み、裏口の窓から小屋に入り込んで、出られなくなって、泣き疲れて眠ってしまったのでした。気づかれずに時間が経てばたいへんなことになっていたところです。
本官はこの救出で署長賞をいただきました。
あの腹をすかせた死神犬は、美味そうなニンゲンの子供を見つけて何とか小屋に侵入しようとしていたところを本官に見つかったのでしょう。やつにとっては、しくじったわけですが、本官にはとんだ怪我の功名になったということで。
いや、どうも手柄話をお聞かせしたみたいになってしまいましたが。
まあ、これまでに被害届は出ていませんが、あんな人喰いの死神は、早く捕獲して処分するべきですな。
保健所の野犬狩りを逃れつづけているのは、他の野良犬と群れないで、日中は川端の草むらに潜んでいるからでしょうが、なにせ老犬ですし、そろそろ自然と姿を消すでしょう。何といってもオリンピックで東京も変わりますからね。
戦争の亡霊みたいな犬ですよ。
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