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☆
コハクのこと、悪い犬だと思ってなかったの。
ほえたりうなったりしないし、いつも離れたところにいるだけだから。
あたし、母さんに叱られて家の外へ出されたの。妹をいじめたから。でもね、あたしだけ悪いんじゃないのに。
家の横のガレキに座って泣いてたの。
目ぇつぶってしくしく泣いたわ。
さびしかった。寒かったわ。
でもね、ほっぺたのところが、あったかいの。何かが、あたしのほっぺたを舐めてんのよ。あたしの涙を舐めてんの。
目を開けるとね、目の前に、犬がいたわ。
コハク。のらいぬよ。
コハクがね、あたしの涙をぺろぺろ舐めてた。しょっぱいのがおいしいのかな。
こわくなんかなかったよ。
コハクおとなしいの。
あたしは母さんに家から出されてさびしかったけど、コハクもさびしそうだった。
あたしコハクをなでようとしたわ。
でもね、母さんが戸を開けて出てきて、あたしの名前叫んで、大声でコハクを追っぱらっちゃった。コハクはおとなしく消えていったわ。
母さんはあたしを抱っこして、すごく怒った。
しにがみにさらわれるところだった、大声だして逃げなきゃダメよって。あたしまた叱られたわ。悪いことしてないのに。
コハクは悪い犬なんだって。食べられるから近づいちゃいけませんって。
知らなかったけど、あたし、コハクがこわくて悪い犬だってもうわかったよ。
しにがみ、なんだって。
コハクが見えたら、遠くにいても、あたしこれからは走って逃げるんだ。
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