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久々にふたりきりで過ごす通夜の晩、気難しくて口数のすくない養父ではあったが、もうなにも語るはずもなく横たわっているのを見るのはさすがにこたえたという。
彼が亡くなった途端起き上がった、氷月とは関係のない、親戚その他の連中にとっては重大な様々な問題もまた彼女を追いつめた。
まだ作家の死を十分には飲み込めないでいる彼女に対して、彼らは責めたり脅したり取り入ろうとしたりしてやっきになっていて、そのエネルギーたるや、凄まじいらしい。
作家の遺書には各方面にお礼と謝罪の言葉が述べられ、自身の死後についての細かな指示もされていて、氷月にも多すぎるほどに様々なものが遺されたが、最後までくわしい理由や心情について触れられることはなかった。
まるで、不幸の大安売りみたいな人生だね。
そうして、先生と先生の罪と自身の罪について。
「結局、私が生まれてきた意味はあったのかな」
そう言う横顔はいかにも頼りなく、ちいさな子どもみたいに無防備だった。
どれだけの悲しみと淋しさと不安を抱えて生きてきたことだろう。
特に、今の容赦ない喪失感はハイスピードで氷月のエネルギーを奪っている。
責任とか後悔とかそういう言葉で片付けられない、圧倒的な喪失感。
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