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確かにしかめつらも照れたような笑顔もあまっちょろい悩み癖も、若い母性本能をくすぐるのには十分で、しかもどんな育ち方をすればこんなふうな性質がつくられるのだろうと思うぐらい、先生の周囲はやわらかな光に満ちていた。 低くあまい声が話しかけるたび、あたたかな手が葉先に触れるたび、芯から放たれる温もりが伝わって僕を包んだ。 この幸福に満ち満ちた場所で、時折り見せる、一点をぎゅうと見つめる癖だけが先生には全然そぐわなくて、僕は気になっていた。 先生は植物と書物とコメディ映画が好きで… 実は氷月をなにより愛していた。
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