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「今は、この鉢植えだけが欲しい。他の何も、例えば言葉やなにかより」
有無を言わせぬ、つよい口調だった。
彼女がこうと決めたらもう何がどうあってもそうなるに違いない、そんな感じ。
聞こえるか聞こえないかの鬱陶しさの雨音のなか、僕は真剣に祈ったけれど嫌な予感っつうのは絶対に当たると決まっている。
勿論、先生は折れた。
「…わかった、いいよ」
「よかった」
氷月は全然うれしそうな顔なんかしないで言った。
「先生、帰りに持ってきてね。うちで待ってる」
そう言って彼女は出ていってしまったけれど、部屋にはつめたく、不思議にあまい残像だけがいつまでも濃く漂った。
ためいき。
僕はいつまでも春のひだまりみたいに居心地のいい研究室と、その部屋によく似たあたたかな先生が大好きで、あんな得体の知れない女にきまぐれに連れてかれるなんて、嘆きに嘆いていっそ枯れてしまおうかと思った。
だけどただの鉢植えに文句をいう口もなく、抵抗する手足だってなかったし、夕方には先生に連れられて氷月の部屋に移動することになった。
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