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第1章 火照る体
沈み始めた夕日が空を赤く染めるにつれて、それを切り取る西の山の稜線が濃く、黒く浮かび上がってくる。その長く波打つ稜線が地を這う龍の様に見えることからその名がついたと言われる臥龍山は、緑豊かな山だ。
しかし、その一角に雑草すら生えることのない不毛地帯がある。鬱蒼と茂る森の中にそんな場所があることを知るのは、限られた者だけだ。注意深く結界が張られたその地には、常人は辿り着くことが出来ない。
辿り着けるのは、選ばれし者のみ
そのことにまだ気付かぬ少年が一人、その不毛の地のすぐ手前の藪に身を潜めている。
剣崎三郎。
少年らしく滑らかに整ったあどけない顔をしているが、美しく濃く生えそろった眉の下の眼光は鋭い。そして日に焼けた肌の下には、野山を駆け回る間に自然と身についた筋肉の隆起が見える。
彼の視線の先には、もう一人少年がいる。
美濃光。
その名の通り、光輝く黒い髪と白い肌を持つ見るものの息を止める程の美少年だ。
しかし三郎が潜んでいた場所を通り過ぎて不毛の地に入った彼が気配に気付いて振り返り2人の目が合った瞬間、息を止めたのは光の方だった。
「三郎、どうして――」
潤んだ目を見開いて悲鳴のような叫びをあげた光に、三郎は堂々と答えた。
「おまえ最近よくここに来てるだろ? 今日も来るかと思って待ってた」
「最近よくって――いつからここを知ってたの?」
「ああ、何度か山に入って行くおまえ見かけて、この前こっそり後をつけた。でもおまえが何か始めた時、急に風が強くなって目を開けていられなくなって、風が止んだ時にはもうおまえはいなかった」
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