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確かにその通りかもしれないとショックを受けた四郎に背を向けて、一郎は歩き出した。
「一郎さん、何処行きはるんですか?」
「俺が戻るまで独りで練習しろ。後で見せて貰う」
そう言い残すと、一郎は飛ぶように崖を駆け上がり消えてしまった。
独り谷に残された四郎は、辺りを見回した。前が見えない程赤い植物が生い茂っていた谷には、もう何もない。すぐ後ろに城への出入り口を囲む生け垣があるだけで、あとは平らな地が続いている。
「練習て……ここに球打って平気なんやろか」
地面が割れて更に深くなった谷底に落ちたらどうしようと心配しながら、四郎は弱い球を打ってみた。すると球は、地に落ちる前に消えてしまった。封印に守られたこの場所は、どうやら戦士の攻撃にも強いらしい。それに中が見えない沼と違って自分が打った球の強さがわかりやすい。
「なるほど。確かに練習には最適や」
独り言が空しく谷に響いた。人見知りをしない代わりにひとりぼっちが苦手な四郎は淋しくなった。
「あーもう、はよ帰りたい」
叫びながら斧を振ると、さっきより大きな球が飛び出したが、やはり途中で消えた。
「なんやムカツク……」
谷を壊すどころか、地面に当てることも出来ない。せめて当てたいと四郎は斧を振り続けた。しかし地面との距離は縮まったかと思うとまた開く。飛んで行く方向もバラバラだ。
「ほんまに攻撃にムラがあるわ……」
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