第6章 もっと強く

21/37
前へ
/962ページ
次へ
四郎は斧を止めて遥か前方を見た。谷の一方に開いた緩やかな斜面に続く灰色の地、そして沼。今は静かに見えるその沼から出て来た龍の顔を思い出して、四郎は気を引き締めた。 「おまえに食われるのはごめんや」 沼に向かって放った大きな球は、もちろん沼には届かなかったが、きっちり沼の方向に飛んで行き、地面をかすった。 「おおっ、やった!」 四郎は同じ場所をめがけて再び打った。今度は当たらなかったが、球はほぼ同じ場所に飛んでいった。目標が定まった。同じ場所に当てるよう集中して、四郎は練習に没頭した。 そして連続で当てることが出来るようになった頃、一郎が戻って来た。 「球が丸すぎる。もっと尖らせろ」 すぐ後ろに立たれるまで気配に気付かなかった四郎は、驚いて振り向き、頭を下げた。 「お帰りなさいませ、一郎様。あの、どちらへ……」 一郎は四郎の問いを無視して刀を振り上げた。それが美しい軌道を描いて振り下ろされると同時に、矢のような光が飛び出し地面に刺さった。 「うわっ!」 四郎がその場に行って確認すると、地面には底の見えない深い穴が開いていた。 「斧の角度と振り出しの速さを調整してみろ」 「はあ……」 元の位置に戻り、よくわからないまま打ってみたが、球はさっきより弱くすぐ消えてしまった。それでも何度か繰り返している間に、球は地面に強く当たるようになっていった。 「いいだろう。今日はもう終わりだ。明日またここで練習に励め」
/962ページ

最初のコメントを投稿しよう!

225人が本棚に入れています
本棚に追加