第6章 もっと強く

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「そこにはありません。一郎様がお持ちです。第一、あなたが読んでも意味がわからないでしょう」 嫌みを言って追い払おうとしたが、三郎は平気だった。 「じゃあ教えて下さい。前回沼で戦った時、剣の戦士はどんなだったか」 次郎は露骨に面倒くさそうな顔をしたが、それでも三郎は引き下がらなかった。 「お願いします。俺、知りたいんです」 三郎は、つぶらな瞳で見詰めてくる。何も知らない、汚れなき子供の目。 次郎は彼から目を逸らしながらため息をついた。 「もう話したじゃないですか。刀と弓の光で釣り上げた龍を斧と剣の光が砕いた。止めをさしたのは一際強大な斧の光だった。これ以上の記録はありません」 「じゃあ一郎は、何を調べる為に書物を持ってるの?」 「一郎様が調べているのは、その後の出来事です。あなたが今知る必要はありません。それより――」 次郎は三郎の腕にそっと触れた。三郎がビクンと震えると、次郎は急に優しくなった。 「あなたの話を聞かせて下さい。さあ、ここに座って」 素直に座布団に腰を下ろしながら、三郎は問い返した。 「俺の話?」 「ええ。剣崎家には連絡出来なかったと聞きました。でもあなたは来た。一郎様は、剣の光に導かれたのだろうとおっしゃいましたが、それだけですか?」
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