第1章 火照る体

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戦士のイメージとは程遠い美少年の名前を聞いた母は驚いた顔をして答えた。 「戦士は一人じゃないとは聞いたわ。でも名前までは……。ごめんなさい、お祖母様からもっとよく話を聞いておけば良かったわね。お母さん……信じたくなかったの」 母は声を震わせて三郎を抱きしめた。 「お父さんが龍の住む世界に行ってしまって……その上あなたまでそこに行って龍と戦う宿命を背負っているかもしれないなんて」 けれど三郎の父は宿命を拒んだはずだった。 彼は龍を信じなかった。確かに剣は存在するし戦いの記録を残す絵巻もあるが、3代遡っても実際に龍と戦った者はいなかったからだ。戦士の家系に流れる特別な血を守る為に決められた家の娘と結婚しろという命令は、三郎の父には受け入れる必然性のない時代錯誤な迷信としか思えなかった。だから母と駆け落ちした。 それでも、血は守られた。 その証が、息子である三郎の腕に今くっきりと刻まれた。 「剣がここにあるってことは、父さんは戦士になって戦いに行ったわけじゃないの?」 「ええ、多分……。父さんの腕には、戦士の証はなかったはずよ」 けれど三郎の腕に証が現れたのもついさっきだ。母が知らぬ間に、それは父の体に刻まれていたかもしれない。 父は剣道の達人だった。伝来の剣はなくても、別の剣を使ってあちらの世界で龍と戦っているのかもしれない。伝来の剣は大きくて切れ味は良さそうだが、特に変わった特徴はない。他の剣でも代わりになりそうだと思いながら三郎は剣を眺めていた。 すると突然、剣が光り始めた。 「母さん、これは――?」 三郎の母は首を振ったが、思い出して剣を収めていた箱を見た。説明なのか呪文なのか、そこには古い文字で何か記されていた。
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