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三郎は渡された剣を見た。鋭利に輝いていた刃先の光が鈍っている。その剣を、切られた首から徐々に蒸発するように消えていく龍の死体に向かって振ってみたが、小さな光の球さえ飛び出さなかった。
「どうしよう、壊れちゃった!」
「そりゃそうやろ。直接触れたらアカンから投げ技使うてたんやから。あの龍の体液には沼の水と同じ毒性がある言うたやないか」
確かに聞いたが忘れていた。とにかく龍を倒したい、その一心だった。
「ねえ、これもう使えないの?」
大きな目を潤ませて訴えかける三郎に向かってため息をつくと、一郎は指示を出した。
「五郎、次郎と四郎を城に連れて帰って休ませてくれ。俺は出掛けてくる。三郎、おまえも来い」
「何処行くの?」
壊してしまった剣を今更大事そうに抱えて一郎について行きながら、三郎は尋ねた。
「本来、刃物の修理は鍛冶屋である剣崎家の仕事だ。その剣も、この刀も、おまえの先祖が打ち出した。しかしおまえは、剣を作ることはおろか手入れさえ出来ないだろう」
「そんなこと言われても……ウチはもう鍛冶屋じゃなかったし」
「事実を言っているだけだ。本来城内の鍛冶場でおまえがする仕事だが、出来ないものは仕方ない。だから出来る職人の元へ行く」
「えっ、職人って……ここに俺達以外の人が住んでる場所があるの?」
「ああ。龍人界を追われ、人間界にも行けない人々がひっそりと暮らす村がある」
「へえ、そうなんだ。良かった、じゃあこの剣直る?」
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