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それで中に入っていた粉と水はしっかり混ぜ合わされた。
源三がそれをすくい取り剣先に掛けて布でこすると、少しだけ剣が元の色に近付いた。
「よし、じゃあおまえは反対側から磨け。とっととやらないと、溶けてなくなっちまうぞ」
「えっ、まだ溶け続けてるの?」
「ああ。目に見えないほど、ゆっくりだけどな」
三郎は源三から道具を受け取ると、急いで剣を磨き始めた。
「そんなに大事なら、なんで最初から大事に使わないんだ」
そう言われても返事のしようがない。三郎が黙って作業を続けていると、源三は独りで話し続けた。
「この剣は、おまえと同じ名前のご先祖様が作ったんだろ? 伝説の鍛冶職人、剣崎三郎。俺はそいつにあやかって名前に三をつけられたんだぜ。その末裔が刃物をまともに扱えないとはがっかりだな」
三郎が耐えて黙っていると、彼は更に続けた。
「一郎って言ったか。あいつの刀は見事だった。あれは相当の腕前だな」
「そんなこと……武器を見ただけでわかるんですか?」
「わかるさ。色んな奴が使った刃物を見てきた。逆に刃物を見れば、使ってるのがどういう奴で、どんな使い方をしているのかわかる」
三郎はまた返す言葉なく黙った。源三も暫く黙って作業を続けたが、その間ずっと剣ではなく、三郎の顔を眺めていた。そこへ娘がやって来た。
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