第7章 失った輝き

10/26
前へ
/962ページ
次へ
それで中に入っていた粉と水はしっかり混ぜ合わされた。 源三がそれをすくい取り剣先に掛けて布でこすると、少しだけ剣が元の色に近付いた。 「よし、じゃあおまえは反対側から磨け。とっととやらないと、溶けてなくなっちまうぞ」 「えっ、まだ溶け続けてるの?」 「ああ。目に見えないほど、ゆっくりだけどな」 三郎は源三から道具を受け取ると、急いで剣を磨き始めた。 「そんなに大事なら、なんで最初から大事に使わないんだ」 そう言われても返事のしようがない。三郎が黙って作業を続けていると、源三は独りで話し続けた。 「この剣は、おまえと同じ名前のご先祖様が作ったんだろ? 伝説の鍛冶職人、剣崎三郎。俺はそいつにあやかって名前に三をつけられたんだぜ。その末裔が刃物をまともに扱えないとはがっかりだな」 三郎が耐えて黙っていると、彼は更に続けた。 「一郎って言ったか。あいつの刀は見事だった。あれは相当の腕前だな」 「そんなこと……武器を見ただけでわかるんですか?」 「わかるさ。色んな奴が使った刃物を見てきた。逆に刃物を見れば、使ってるのがどういう奴で、どんな使い方をしているのかわかる」 三郎はまた返す言葉なく黙った。源三も暫く黙って作業を続けたが、その間ずっと剣ではなく、三郎の顔を眺めていた。そこへ娘がやって来た。
/962ページ

最初のコメントを投稿しよう!

225人が本棚に入れています
本棚に追加