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「お父さん、夕飯の支度が出来ました」
「うん」
源三が立ち上がって出て行くと、娘はそのまま作業を続けている三郎を心配して声を掛けた。
「本当に、何も召し上がらなくて大丈夫?」
「はい。お構いなく」
「三郎さんでしたよね。私、花と申します。何かあったら遠慮なくおっしゃって下さいね」
「はあ、どうも……」
三郎がそっけない返事をしても花は部屋に留まっていた。まだ何か用かと三郎が顔を上げると、目が合った彼女は微笑んだ。
「あなたも綺麗な顔をしているのね」
褒めたつもりだったのに三郎が眉間に皺を寄せて深く俯くと、花はクスッと笑って去って行った。
「だから何だよ」
不機嫌に呟いて、三郎は作業に集中した。
しばらくして戻って来た源三は、浴衣に着替えていた。食事だけでなく、風呂も済ませたらしい。
「どれ、見せてみろ」
三郎が手をどけると、源三はまた拡大鏡で剣を調べた。
「見てみろ。深い傷に入り込んでいる。こういうのは、これで根気よく取り除くしかない」
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