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慌てて手拭いで前を隠しながら、三郎は叫ぶように答えた。
「自分で出来ます!」
「そうですか。失礼しました」
花がまたクスッと笑って戸を閉めると、三郎は舌打ちして呟いた。
「なんなんだあの女」
また戸を開けられても大丈夫なように、三郎は湯船に入った。城も決して居心地のいい場所ではないが、ここはもっと居心地が悪いと思っていたけれど、久しぶりに独りきりで入った小さな湯船は気持ち良かった。でもこんな所でゆっくりしている場合ではない。本当はもっと浸かっていたかったが、三郎はすぐに風呂から出た。するとそこに脱いだ着物はなく、替わりに浴衣が置いてあった。それを広げた三郎は怒って花を呼んだ。
「すいません!」
返事がない。三郎は風呂場の戸から顔を出して彼女の名を叫んだ。
「花さん!」
「はい」
今度はすぐに返事が返ってきた。やって来た彼女に、三郎は文句を言った。
「あのこれ、女物なんですけど」
しかし花は平然と答えた。
「ええ。申し訳ないけど、ウチには私と父の着物しかありませんから。あなたの体型には、私の着物の方が合うと思いますよ」
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