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第2章 茶髪のイケメンと優しい巨漢
山に一歩踏み込んだだけで、嫌な気配に包まれた。
空気が気味悪く湿っている。
音にならない低い響きが地を震わせている。
――居る
見たことも聞いたこともない龍の気配を、三郎はその身に感じていた。
そして森が開けた。
そこはまるで空からも切り離されたように、夜の闇ではなく灰色の薄明かりに包まれていた。その明かりの中に見えた光景に、三郎は叫んだ。
「光!」
巨岩は真っ二つに割れて倒れていた。
岩のあった場所には緑色の炎が揺れ、その上に舞う灰色の龍の背に、光を抱きかかえた人物が座っていた。
いや、人ではない、恐らく龍人だ。
肌は金属で出来ているかのように炎を反射して緑色に輝いている。
ガラス繊維の様な髪と宝石の様な目も緑色だが、これは炎の反射ではなく内側から発光している様に見える。
体型は人の男性と同じ様だが、遠目に見ても三郎とは比べものにならない程背が高そうだ。顔のつくりも人間と同じだが、整い過ぎていて特徴がない。
それでも龍人の顔を覚えようと三郎がじっと睨み付けると、無表情だった顔がニヤリと笑った。
色のない唇が開き、中から緑色の舌が出て来た。
そして龍人は三郎を見詰めながら、その舌を光の頬に這わせた。
「貴様――!」
三郎は剣を振り上げて飛びかかったが、龍は三郎の頭上に舞い上がり、龍人には全く届かなかった。
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