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「それは何も知らなかったからだよ。龍を直接斬ったら武器が壊れて、直して貰う為には何でもしなきゃならないなんて知ってたら出来なかった。俺は……何も知らない子供だ」
三郎が泣きそうな顔でギュッと口を閉じると、五郎は立ち止まり、両腕を開いた。
「ああ、おまえは子供だ。子供なんだから我慢しないで泣いたらいい」
そう言われても三郎は黙って立ち止まっているだけだった。しかし五郎の方から近付いてそっと抱き寄せると、三郎は五郎の胸に顔を押し当てて泣き始めた。そしてひとしきり泣いてから、三郎は恥ずかしそうに五郎から離れた。再び並んで歩きながら、三郎は尋ねた。
「ねえ……一郎はなんであんなに何でも知ってるの?」
「いずれここに来ることになると確信して準備されて来たからだ。親の教育だけでなく、あの方は幼い頃から本能で感じ取っていたらしい」
「そうなんだ……」
五郎は、ため息をついて俯いた三郎の肩を抱いた。
「引け目を感じることはない。でももう少し敬った方がいいなあ」
三郎は黙ったまま微かに頷いた。
「さて、そろそろ帰ってもいいか?」
今度は顔を上げてしっかり頷いて、三郎は五郎が描いた印の中に入った。
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