第8章 初めての喜び

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「求めることが許されるのは体だけです。私はあなたを嫌いになることも好きになることもありません。あなたも私に特別な感情を抱かぬよう心がけて下さい」 「そんなの無理だよ、だってもう――」 「いけません。いけないのです」 すがる三郎を振り切って、次郎は部屋を出て行った。それを三郎が追いかけようとすると、隣の部屋の戸が開いた。 「煩いな、どないした?」 四郎だ。まだ裸だった三郎は慌てて部屋に戻り、戸を閉めた。 「なんでもありません」 そう答えて四郎が部屋に戻るのを見届けると、次郎は自分の部屋に向かった。部屋の前まで来ると、隣の一郎の部屋の戸が開き、次郎は部屋から出て来た一郎に一礼して報告した。 「仰せの通りにして参りました」 「そうか。ご苦労」 それだけ言うと、一郎は部屋に戻ってしまった。肩にさえ触れず。 三郎に性の喜びを教えてやれと命じたのは一郎だが、他の男と関係を持った自分を汚らわしいと感じているのかもしれないと、次郎は不安になった。 「バカなことを……」 恋人でもない自分が誰と寝ようが一郎が気にするわけがない。 次郎は独り呟いて就寝の準備をしたが、明かりを消して布団に入り目を閉じると三郎の声が脳裏に蘇ってきた。 そんなの無理だよ 好きになるなと言われても、もうなってしまったしどうしようもないと彼は訴えた。 (それでも、いけません……) 三郎の幻影、そして自分に向かって、次郎はそう言い聞かせた。
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