226人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ他の人に代わって貰えば良かっただろ」
「それがおらんのや。今一番役立たずがおまえ、次が俺や。腹立つこと言わすな」
「自分が言い出したんだろ。でも四郎この前は一郎に頼りにされてたじゃん。今どんな所に行ってるの?」
「白い霧に覆われとる、なんや幻想的な所や。龍も真っ白で高い所を素早く飛び回っているらしい。弓がベストや。次郎ちゃんの腕の見せ所やな」
次郎の名前を聞いた三郎はピクリと肩を震わせて黙った。抱き合っていた時の興奮と喜び、そしてその後の会話での失望が蘇ってきた。四郎は三郎の反応に気付いたが、あえて触れずに訓練場に入った。
「皆が帰るまで使い放題やて。どうする? まず独りで――」
四郎が振り返った時には、後ろにいた筈の三郎はもう場内に入っていた。けれど龍は現れない。
「あれ? まさか五郎ちゃん訓練場開き忘れた?」
しかし四郎が一歩踏み入ると、すぐに龍が現れた。あの沼にいた灰色の龍だ。
「うわ、おまえか。そういや俺はまだ止めさしてなかったな」
四郎は空かさず大きな球を放った。当たりはしたが、硬い背中の鱗には僅かな亀裂しか入らなかった。
「あかん、一郎さんに釣り上げといて貰わんと無理やろか。おい三郎、おまえも戦え!」
けれど三郎は動けなかったし、龍の方も彼を戦士として認識しないままだった。四郎は姿勢の低い龍と地面の僅かな隙を狙って転がすように球を打ち続けているが、距離が取れないので大きな球を作ることが出来ず、あまり効果がない。
「こうなったら相打ちしたる」
最初のコメントを投稿しよう!