第8章 初めての喜び

7/20
前へ
/962ページ
次へ
四郎は力を蓄えながら龍の接近を待ち、ギリギリの所で斧を振るった。巨大な球は龍の硬い鱗を吹き飛ばしたが、一緒に砕けた血肉が吹き上がってきた。 「うわあっ!」 近すぎて避けきれない。全身に血を浴びた四郎は龍の足元に倒れた。傷つき怒り狂った龍は、彼に向かって大きな口を開いた。 「四郎!」 叫んだ瞬間には、もう三郎は剣を振り下ろしていた。実際に龍を倒した時以上の大きな赤い光に包まれた剣は、龍の首を一撃で打ち落とした。消える龍を呆然と見送った三郎は、ハッとして剣を確認したが、剣は美しく輝いたままだった。 「なんや三郎、治っとるやないか。てか前より凄いやん」 三郎は、いつの間にか立ち上がり後ろで手を叩いている四郎を振り返り、目を見開いた後睨み付けた。 「おまえ、やられた振りしたのか?」 掴みかかりそうに接近してきた三郎の背中に腕を回すと、四郎はにんまりと笑った。 「ちゃうって。ホンマにやられて一瞬意識飛んだわ。せやけどあれは残像や。どんだけやられても死なん。本気で心配してくれたん?」 そうだ。ここに出現するのは全て残像だった。そう思い出した三郎は耳を赤くして四郎から離れようとしたが、四郎は逃がさなかった。 「照れんでええやん」 四郎はからかうように三郎を抱き寄せて頬摺りした。 「おまえの頬気持ちええな。ボールみたいにパンパンや。若いな」
/962ページ

最初のコメントを投稿しよう!

226人が本棚に入れています
本棚に追加