第8章 初めての喜び

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「間違って互いに斬り合うなっちゅうことや。霧で視界を奪って攻撃して来るなんて卑怯な奴やな」 そう言っている間に完全に霧に覆われた。何も見えない。そして何の気配もない。通常敵に近付けば武器は光を増す筈だが、三郎の剣にも四郎の斧にも変化がない。 「本当にいるの? なんで剣光らないの?」 すると場外から一郎が答えた。 「新種だ。戦いの記憶がない敵には、武器は反応しない」 「えっ、じゃあどうすりゃいいんだよ」 その問いには一郎は答えてくれなかった。三郎は水平に剣を振ってみたが、何かに当たる感触も何かが避ける気配も感じられなかった。ならばさっきのように剣を赤い光で包んで大きくしてみようと試みたが上手くいかず、次いで苦手な投げ技を試してみたが光の球も飛び出さない。 「見える所まで接近してくるの待って直接斬るしかないのか?」 とその時、微かに地を蹴る音がした。三郎はその方向に剣を構えたが、飛びかかってきた敵に押し倒された。至近距離でようやく見えた敵は巨大な狼の姿をしていた。剣で押し返しても、白い毛で厚く覆われた体は斬れない。反対に両刃の剣は三郎自身を傷つけそうになる。巨体に押さえつけられてほとんど身動き出来ない状態で牙と爪、そして剣から身を守るのが精一杯でどうすればいいのかわからない。 四郎は巻き込まれて倒れるのは避けたものの、敵のすぐ真下に三郎がいるので斧を振り下ろせずにいた。なんとか引き離さなければいけない。そう考えた四郎は、敵の尻尾を掴んでみた。すると敵は振り返り攻撃目標を四郎に変えた。 「今だ!」 敵が自分から離れた瞬間に、三郎は勢いよく剣を振るい、四郎も近付くタイミングを感で計って構えた斧を振り下ろした。どちらも命中し、敵は霧と共に消えた。三郎と四郎がホッと息をついて場外に出てくると、一郎は浮かない顔で呟いた。
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