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「せやな。さっさと支度し。一郎さん待っとるで」
そう言う四郎に背を向けて、三郎は身支度を始めた。キスを拒んだ本当の理由は違う。唇に触れられたら、また体が反応してしまいそうで怖かったからだ。一昨日まで知らなかった行為なのに、知ってしまった快楽にすっかり溺れている自分が情けない。
三郎は急いで敏感な肌を隠し、次郎と五郎を残して3人で城を出た。着いたのは、霧に包まれた白い森だった。木も草も全て真っ白だ。
「気配を感じたら霧を払う。見えた敵を斬れ。ただし深追いはするな。仮に龍と遭遇しても、今日は戦わない」
「はい」
「他にも新種がいるかもしれない。注意して進め。決してはぐれるな」
「はい」
返事をしたのは四郎だけで、いつものように四郎に突かれても三郎は無言のままだった。一郎はそんな2人を振り返ることもなく、森に入って行った。奥へ進んでいくと、すぐに森の入り口は見えなくなった。何処を見ても真っ白だ。はぐれたら確実に迷子になる。三郎は一郎の背中を追いかけた。しかしいくら進んでも、敵は現れなかった。
しばらくすると気配を感じたわけではないが、一郎は立ち止まった。
「誘い込まれているのかもしれないな」
「気付かれとるいうことですか?」
「恐らくな」
真っ白ではない戦士は目立つ。対する敵は白に溶け込んでいる。
「暫くここで待ってみよう」
「そうですね」
そう答えて四郎が近くの木に寄りかかろうとすると、一郎が背中を抱きかかえて止めた。
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