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「生き物にむやみに触るな。それに待つと言ったのは、休むという意味ではない」
「す、すいません」
四郎を放すと、一郎は三郎に目を向けた。
「三郎、おまえも気を抜くな。退屈なら剣の稽古でもしろ」
「この辺の木、斬っちゃってもいいの?」
三郎が剣を構えると、一郎はそれを制し自ら目の前の木を切り倒した。断面も真っ白で、そこから何か吹き出してくることはなかった。
「斬ってしまっても問題ないだろう。だがそれを目標にしても意味がない。刀に出来る技は大抵剣でも出来る。この技を習得しろ」
そう言うと一郎は何気なく刀を振って見せた。すると風が起こり、数十メートル先まで霧が消し飛んだ。
「うわっ、流石ですね。それって斧じゃ――」
「難しいだろう。四郎、おまえは見通しがいいように木を切り倒せ」
「はい」
雑用を押しつけられて嫌がることもなく、四郎は早速周囲の木を切り倒し始めた。倒れる方向を考えながら、順に木を切る。懐かしい本業だ。四郎は黙々と作業を続けたが何本目かの木を倒そうとした時、突然叫んだ。
「危ない!」
四郎は倒れていく木の下に駆け込み、寸前の所で転がり出た。
「はー間に合うた」
ホッとして見下ろす懐には、ふわふわした白い毛に覆われた子犬のような生き物がいた。
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