第8章 初めての喜び

20/20
前へ
/962ページ
次へ
とても可愛らしい。四郎は微笑んで頭を撫でようとした。すると頭上でうなり声がした。見上げるとあの白い巨大な狼がいた。助けてしまったのはその子供だと気付いたが、武器は投げ出したままだ。四郎は狼の子を抱えたまま、ただ呆然としていた。 「何をしている!」 叱咤しながら飛んで来た一郎が、寸前の所で親を斬り殺した。一郎は次いで四郎から子供を奪ってその子も斬り殺すと、なお呆然としている四郎に言った。 「ここは人間界の森ではない。出会う生き物は全て敵だ」 「……はい」 わかっているつもりだったが、忘れていた。あんなに可愛らしい敵もいるのかと衝撃を受けた四郎が俯くと、三郎が2人の間に割って入り一郎を睨み上げた。 「でもあんな子供まで殺す必要あるの?」 「子供はやがて大人になる。おまえもいい加減大人になれ」 一郎はそう答えながら、城に帰る印を刻んだ。 「城に帰れ」 「えっ……一郎さんは?」 「あの敵は俺独りで始末する。お前達は邪魔だ」 「いや、でも――」 いくら一郎でも独りにしていいのだろうかと四郎は心配したが、三郎は四郎の武器を拾ってきて彼の手を引いた。 「いいよ四郎、帰ろう」 「ちょい待てって、さ――」 三郎と四郎は印の中に消えた。一郎は印を消すと、独り狼が出現した方向へ歩いて行った。
/962ページ

最初のコメントを投稿しよう!

226人が本棚に入れています
本棚に追加