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第9章 美しい敵
三郎と四郎は一瞬で城に戻ったが、四郎は残してきた一郎のことが気掛かりだった。
「一郎さん、ホンマに独りで平気やろか」
「あんな奴のこと心配するの?」
「あんな奴て……悪いのは俺やし」
「四郎は悪くないよ。いくら敵だってあんな小さな子供殺すことないじゃないか。しかも四郎の目の前でさ」
その瞬間を見てしまった四郎は思い出して身震いした。あんな可愛らしい生き物に斧を振り下ろすなんて自分には出来そうもない。
「あそこまで冷酷な奴だとは思わなかったよ」
「それは言い過ぎやて。一郎さんかて、ホンマは斬りたくないかもしれへんし」
四郎が宥めようとすると、三郎は益々怒った。
「俺は四郎の味方してるのに、どうして一郎庇うんだよ」
「そりゃ……おまえは一郎さん嫌いかもしれんけど、俺は好きやからな」
「はあ? 趣味悪!」
「趣味とかそっちの話やなくて、尊敬しとるのや。あの人には覚悟がある。俺等の世界を守る為に何がなんでも戦う覚悟がな。俺はアカンわ」
覚悟という言葉に、三郎はドキリとした。自分が戦士だと知った時には覚悟したつもりだったが、今は自信がない。すると三郎の心を見透かしたように、四郎が言った。
「おまえもないやろ。まあおまえの場合無理もないけどな。やっぱり少しは、知った方がええんちゃう?」
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