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三郎は不機嫌に書物を閉じると、最初に開いた巻物の棚に戻り別の巻物を取ってきた。恐らくこれも絵巻だろう。その方がわかりやすいし、もしかしたらもっと憎たらしい容貌の龍人が描かれているかもしれない。そう思いながら巻物を開いた三郎は絶句した。
「これはまた随分と……三郎、このお方が目の前に立っても剣振り上げられるか?」
それはやはり人物像で、龍后と書かれていた。美しい。これ程に美しい人を見た事がない。そう口に出したら負ける気がして三郎が唇を噛みしめていると四郎が言った。
「綺麗やな。こっちはまるで次郎ちゃんが化粧して着飾ったみたいや」
龍王と一郎ほどではないが、静かに微笑むその顔は次郎に似ている。これ以上はないと思っていた次郎の美しさに、更に磨きを掛けたような姿だ。三郎は巻物から目を逸らすと、そのまま書庫を出て行こうとした。
「何処行く気や?」
「次郎の様子見てくる」
「そんなら俺も行くし、これ片付けて行けや。おい、三郎!」
三郎は構わず出て行ってしまったので、四郎は急いで巻物を戻して後を追いかけた。三郎は早足で歩いて行ったが、次郎の部屋の前まで行くと止まった。昨日この部屋の戸を開けた時に見た光景を思い出して三郎が躊躇っている間に、四郎は追いついた。
「どないした?」
「――五郎もまだこの中?」
「そうやろな」
四郎はノックして中に声を掛けた。
「五郎ちゃんいる? 開けてもええ?」
「どうぞ」
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