第9章 美しい敵

8/18
前へ
/962ページ
次へ
「言い訳は無用です。もういい。あなた方は残っていなさい。五郎、行きますよ」 「いやしかし、次郎――」 「一郎様がご不在の時は私がリーダーです」 きっぱりそう言うと、次郎は三郎の手を振り払って部屋を出た。その後を追おうとした五郎は立ち止まり、三郎と四郎を誘った。 「次郎はまだ完治していない。かといって一郎様も放っておけないから、おまえ達も来てくれ」 「ああ、そうやな。行くで、三郎」 三郎は唇を噛みしめて眉を顰めていたが、黙って皆について行った。早足で歩く次郎について行くと、すぐに森の入り口に着いた。森は、先程より濃い霧に覆われていた。 「一郎さん、見つかるかなあ。行き違いになったり……」 そう呟く四郎に背を向けたまま、次郎は森に向かって弓を構えた。放たれた矢は高く飛び、木々に刺さると光り輝き始めた。その光は霧を制し、森を照らした。 「スゲー……」 「行きますよ」 次郎は光の矢を放ちながら森を進んで行った。その凜とした後ろ姿を眺めながら、三郎は四郎に尋ねた。 「なあ、前から思ってたけど、次郎って何処から矢出してるの?」 次郎が手にしているのはいつも弓だけで、矢筒はない。矢は何処からともなく、弓を構えた瞬間に現れる。 「ああ……ようわからんけど、弓の戦士は何もない所から矢を作り出せるらしいで」
/962ページ

最初のコメントを投稿しよう!

227人が本棚に入れています
本棚に追加