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「そんなわけがないでしょう。龍です。急ぎましょう」
「え、龍? 一郎さん、今日は龍とは戦わないって――」
と、その時微かに刀の音が聞こえた。
「一郎様!」
次郎は音の方向に駆け出した。3人も後について走って行ったが、霧は益々濃くなって行く。
「一郎さん、霧を払う余裕ないんやろか」
心配そうに呟く四郎の言葉を聞いた次郎は、急に立ち止まった。そして四郎ではなく、三郎を振り返った。
「三郎、一郎様の技は見ましたか?」
「技って……霧を払う技?」
「決まっているでしょう。見たのですか?」
確かに見た。でも習得出来てはいない。三郎が返事を躊躇っていると、替わりに四郎が答えた。
「ああ、一郎さん、三郎の剣でも出来るはずやて言うてたけど、一郎さんが一晩掛けて習得した技やで? そんなに急に――」
「武器は互いに影響しあいます。剣を手にして技を見たなら、剣自身が刀の技を感じたはず。それを我が物にするのは、新しい技を生み出すより遙かに容易いことです。しかもあなたの武器は、初代三郎の最高傑作。刀以上の力を秘めていると言われています。出来て当然と信じて、やってご覧なさい」
最高の武器。出来て当然。それはつまり、出来ないのは戦士の腕が悪いと言うことだ。三郎は唇を噛みしめて前に歩み出ると、一郎の技を思い出して剣を振るった。しかしそう簡単に技は出ない。
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