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「三郎」
次郎は暫く黙って眺めていたが、呼び止めて近付き、三郎の肩を両手で包んだ。
「力が入り過ぎているのではないですか。相手は霧、岩ではありません」
愛しい次郎の言葉に、三郎はハッとした。
「そうか……敵を斬るわけじゃないんだよな」
なんとなく剣を振るっていた三郎は、目の前の霧に意識を集中しながら呼吸を整えた。肩の力を抜きつつしっかりと握りしめた剣が描いた軌道は、それまでよりずっと滑らかで美しかった。
「あっ、今少し消えたんちゃう?」
そう言われればそんな気がする。頷く次郎を横目で見ると、三郎は再び剣を振るった。すると今度は明らかに目の前の霧が晴れた。
「やった!」
しかし喜んだ次の瞬間、三郎は硬直した。数メートル先に、白い狼の死体がある。一匹、二匹ではない。無数の死体が連なっている。
「これ……全部一郎が?」
「一体何匹おるんや……」
「その上龍もいます。急ぎましょう」
避けるのも難しい程死体が連なる道を、4人は進んで行った。中にはまだ小さな死体もあった。
(あいつ……ケダモノだな)
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